竹の子童子
本日14日を以て、一旦静岡県も緊急事態宣言が解除されるようですね
まだまだ気の抜けない状況ではありますが、医療関係者および地方自治体の奮闘、そして更なるパンデミックを防ぐための自粛要請にキチンと応えた日本人の民度はやはり称賛に値するものだと思います。ただしこんな最中、どさくさ紛れにトンデモ法案をいくつも通過させようとしている内閣を除いて、ですが😡
などという個人の愚痴は誰も見たくも聞きたくもないでしょうし、奥方様の新作を楽しみにして下さってるお客様にももうしばらくお時間をいただく状況ですので、ここは閑話休題、“童話”で皆さんの心を和らげてみたいと思います
とは言えこの番頭さんが普通の昔話などを紹介するハズもありません。私の人生の中で最も読後にショックを覚えた作品、こんな結末でいいのか、そもそも読み物としてどうなのか?というほどの衝撃的な作品です。タイトルは『竹の子童子』編纂は児童文学の作家坪田譲治さんです。それではどうぞ
『竹の子童子』
むかし、三吉という桶屋の小僧がいたそうです。
ある日のこと、裏の竹山で桶の箍(たが)にする竹を切っておりました。するとどこかで
「小僧、小僧」と、よぶものがあります
「誰だ。誰だい」といいますと
「ここだ。ここだい。三ちゃん、ここだよ」
と、そ、の声がいいます。三吉はそのへんを見まわし、そこか、ここかと探しましたが、誰もいません
「ふしぎだなあ」と、首をかたむけていますと、
「竹の中だよ、この竹の中だよ」と、一本の竹をサワサワゆするものがあります。そこで、三吉は大急ぎで、その竹をのこぎりで、ゴシゴシゴシゴシひきました。ひきたおしたところが、その竹の中から、小さな子どもが手を出し、頭を出して、やがてすっかり出てきました。五寸(約15センチ)ばかりの人間です。それでも、ちゃんと、そこに立って、
「三ちゃん、ありがとう」あたりまえの人間の声で言いました。三吉はいよいよびっくりして、どういっていいか、しばらくわからないほどでした。それでも
「どうして竹の中なんかにはいっていたのです」やっとそういうと
「悪い竹の子につかまって、竹の中に入れられてしまったんだ」その子どもはいいました
「しかし、おれが三吉だということ、どうしてわかったんですか」三吉がいうと
「からだは小さくても、世界のことはなんでも知ってるんだ。三吉なんか、生まれない先から知ってるぞう」こういったのには、また三吉はびっくりしました。そこで
「あんたの名は、なんというんです」と聞きますと、
「竹の子童子」
「では、あんたの年は」
「千二百三十四歳」
「へーえ、それで、これから、どこへ行くんですか」
「天へ帰る」
「もうすぐ帰るんですか」
「いや、三ちゃんには恩になったから、その恩をかえさないでは、天に帰っても、天の神様にしかられる」
「それで、おれに恩をかえすといって、どんなことをしてかえすんですか」三吉が聞きました
「それは、三ちゃんのすきなこと、七つまでかなえてやる」竹の子童子はいいました。三吉は大喜びしたのですが、それでもいちおう聞いてみました
「竹の子さん、それはほんとうなんでしょうね。うそじゃないでしょうね」
「ほんとうとも。うそどころか」これを聞くと、三吉は目をつぶって、口の中で、
「竹の子、竹の子、さむらいにしておくれ」と、三度いってみました。するとどうでしょう。目をあけてみたら、もうさむらいになって、刀を腰にさしていました
「竹の子さん、ありがとう、ありがとう」三吉は礼をいって、すぐもう武者修行に出立しました
あまりうれしかったもので、
「あと六つ、すきなものをいいなさい」竹の子童子にいわれても
「もういいです。これでいいです」と、どんどん行ってしまいました。それで、童子はしかたなく、天人になって、空へのぼっていきました
おわり
もしかしたらカミュの『異邦人』を凌ぐ不条理文学なのかも知れません
では、今回もご覧いただきありがとうございました