古い映画の話です
前回のブログで明日には新作をご紹介できそうと書いたのですが、前回アップしたものも含めてそれらの作品が作ったそばから次々と嫁ぐこととなり、皆さんにお見せできるものがまた無くなってしまいました
お問い合わせくださったお客様には「こんなもんなんです」などと不躾な返答をしてしまいましたが、本当に売れるときは「あっ」という間に売れてしまうんです、そんなもんなんです
引き続き頑張って作っております。上から目線みたいで恐縮なのですが、気長にお待ちください、としか言えないんです。ごめんなさい🙇
それと、今日は思うところあって1本の古い映画をご紹介したいと思います
終戦の日にしたためたもののタイミングを逸しようやく公開できますが、いささか堅苦しい内容になりますのでご自由にスルーなさってくださいね
1961年制作というからもう60年も前のフランス映画です
第二次世界大戦から10数年、パリ郊外で小さなカフェを営んでいるテレーズの店の前をある浮浪者が通りかかりました
テレーズはその浮浪者の顔を見て驚愕しました。16年前ゲシュタポに連行され行方不明になっていた夫アルベールにそっくりだったのです
すぐにその男を呼び止めて名を呼ぶが彼はまったく反応しません。どうやら記憶喪失になっているようです
生気を失いただ彷徨うだけの男をテレーズはセーヌ川の浮浪者のバラック小屋から引っ張り出し、何度も彼を食事に招きました
周囲に住む人たちもあれはアルベールに違いないと確信し、テレーズに協力し記憶を蘇らせようと努力を始めます
そんなある夜、テレーズは賭けに出ました。彼を招いた店内で二人の想い出の音楽を流し歌ったのです
彼はその音楽に反応を示し、二人でダンスを始めます
「ああ、アルベール。間違いないわ」
テレーズは夫への愛おしさが溢れ出て彼の頭を撫でまわすのですが、後頭部に触れたときに彼の身に何が起こったのかを悟ります
映画では鏡に映った後頭部の大きな傷が映し出されます
驚くテレーズに彼は「楽しかった、あなたはとても親切な人だ」と云って店を出ようとします
うなだれるテレーズ。店の外から二人を見守っていた近所の人々は、独りで店を出てきた男に思わず声を掛けます
「アルベール」「アルベール、お前はアルベール・ラングロワだろ」「アルベール!」
暗闇の中、突然あちらこちらから挙がる声に彼は立ちすくみ、よろよろと歩みを始めます
そしてなぜかおもむろに両手を上げ、向かってきた光へと身を投げてしまいます
映画ではここで車のブレーキ音が轟きます
強烈な、あまりにも哀しいラスト
彼に蘇った記憶はテレーズとのものではなく、強制収容所での地獄の日々だったのです
映画は彼がどうなったのかは詳しく伝えてはいません
この映画を作ったのはアンリ・コルピという監督、脚本は『愛人・ラ・マン』などの作品で知られる女流小説家マルグリット・デュラスです
『禁じられた遊び』と同じ、戦争が残した傷跡を細やかな演出で描きあげた、日本ではあまり知られていないけれど反戦映画の歴史的な傑作です
私自身もちろん戦争を体験しているわけではありませんが、戦争を語り継ぐ人たちが年々減っている世の中で、「積極的平和主義」などと勇ましくも曖昧な言葉で過去を美化する流れがまたぞろ見え始めていることにいささか不気味な危惧を覚えて、備忘のためにブログに残してみたものです
お目汚し大変失礼いたしました
コラ・ヴォケールが歌う有名なシャンソン「三つの小さな音符」が流れるダンスシーンからラストまで(ネタバレ注意です)
では、今回もご覧いただきありがとうございました